おもうに此の山、半ばより上は岩を骨として肉の土薄く、
註:
・畳々(じょうじょう): 本文では、畳々(てふ/\)「て」濁点なし。
・雩(あまごい): 本文では、雩(あまこひ)「こ」濁点なし。
・熊はいでずして: 本文では、いてず「て」濁点なし。
・烟(けぶり): 本文では、烟(けふり)「ふ」濁点なし。
参照リンク:
私の北越雪譜 破目山
単純翻刻
○破目山(われめきやま)
魚沼郡(うをぬまこほり)清水(しみづ)村の奥(おく)に山あり高さ一里あまり周囲(めぐり)も一里あまり也山中すべて大小の破隙(われめ)あるを以て山の名とす山半(やまのなかば)は老樹(らうじゆ)条(えだ)をつらね半(なかば)より上は岩石(がんぜき)畳々(てふ/\)として其形(そのかたち)竜躍虎怒(りようをどりとらいかる)がごとく奇々怪々(きゝくわい/\)言(いふ)べからず麓(ふもと)の左右に渓川(たにがは)あり合(がつ)して滝(たき)をなす絶景(ぜつけい)又言(いふ)べからず旱(ひでり)の時此滝壷(たきつぼ)に雩(あまこひ)すればかならず験(しるし)あり一年(ひとゝせ)四月の半(なかば)雪の消(きえ)たる頃(ころ)清水村の農夫(のうふ)ら二十人あまり集(あつま)り熊(くま)を狩(から)んとて此山にのぼりかの破隙(われめ)の窟(うろ)をなしたる所かならず熊の住処(すみか)ならんと例(れい)の番椒烟草(たうからしたばこ)の茎(くき)を薪(たきゞ)に交(まぜ)窟(うろ)にのぞんで焚(たき)たてしに熊はさらに出(いで)ず窟(うろ)の深(ふかき)ゆゑに烟(けふり)の奥(おく)に至(いた)らざるならんと次日(つぎのひ)は薪(たきゞ)を増(ま)し山も焼(やけ)よと焚(たき)けるに熊はいてずして一山の破隙(われめ)こゝかしこより烟(けふり)をいだして雲(くも)の起(おこる)が如(ごと)くなりければ奇異(きい)のおもひをなし熊を狩(から)ずして空(むな)しく立かへりしと清水村の農夫(のうふ)が語(かた)りぬおもふに此山半(なかば)より上は岩を骨(ほね)として肉(にく)の土薄(つらうす)く地脉(ちみやく)気を通(つう)じて破隙(われめ)をなすにや天地妙々の奇工(きこう)思量(はかりしる)べからず