宿外の家の続かざる処は、
註:
・「家の前に庇を長くのばして架くる」とは、雁木造(がんぎづくり)のこと。現在のアーケード街のようなもの。
参照リンク: 山の暮らし再生機構 牧之通り!
・街(ちまた) 「岐」「巷」 衢 とも書く。町の街路のこと。
参照リンク:
私の北越雪譜 胎内(たいない)くぐり
単純翻刻
○胎内潜(たいないくゞり)
宿場(しゆくば)と唱(となふ)る所(ところ)は家の前(まへ)に庇(ひさし)を長くのばして架(かく)る大小の人家(じんか)すべてかくのごとし雪中はさら也平日も往来(ゆきゝ)とすこれによりて雪中の街(ちまた)は用なきが如くなれば人家の雪をこゝに積(つむ)次第(しだい)に重(かさなり)て両側(りやうかは)の家の間(あひだ)に雪の堤(つゝみ)を築(きづき)たるが如(ごと)しこゝに於て所々(ところ/\)に雪の洞(ほら)をひらき庇(ひさし)より庇に通(かよ)ふこれを里言(さとことば)に胎内潜(たいないくゞり)といふ又間夫(まぶ)ともいふ間夫(まぶ)とは金掘(かねほり)の方言(ことば)なるを借(かり)て用(もち)ふる也 [間夫の本義は妻妾(さいせふ)の奸淫(かんいん)するをいふ] 宿外の家の続(つゞか)ざる処は庇(ひさし)なければ高低(たかびく)をなしたるかの雪の堤(つゝみ)を往来(ゆきゝ)とす人の足立(あしたて)がたき処あれば一条(でう)の道(みち)を開(ひら)き春にいたり雪堆(うづだか)き所は壇層(だん/\)を作りて通路(つうろ)の便(べん)とす形(かたち)匣段(はこばしご)のごとし所(ところ)の者(もの)はこれを登下(のぼりくだり)するに脚(あし)に慣(なれ)て一歩(ひとあし)もあやまつ事なし他国(たこく)の旅人(たびゝと)などは怖(おそ)る/\移歩(あしをはこび)かへつて落(おつ)る者(もの)ありおつれば雪中に身(み)を埋(うづ)む視(み)る人はこれを笑(わら)ひ落(おち)たるものはこれを怒(いか)るかゝる難所(なんじよ)を作りて他国の旅客(りよかく)を労(わづら)はしむる事求(もとめ)たる所為(しわざ)にあらず此雪を取除(とりのけん)とするには人力(じんりき)と銭財(せんざい)とを費(つひや)すゆゑ寸導(せめて)は壇(だん)を作りて途(みち)を開(ひら)く也そも/\初雪より歳を越て雪消(きゆ)るまでの事を繁細(はんさい)に記(しる)さば小冊には尽(つく)しがたしゆゑに省(はぶき)てしるさゞる事甚多し
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