春の雪は消えやすきをもって、
註:
・沫雪(あわゆき)は泡雪とも書く。
万葉の時代には「沫雪(あわゆき)」は柔らかい雪という意味で、春の雪という意味はなかったようである。後に淡雪(あはゆき)と混同され、あるいは同化され(この辺のところは色々な説があるようだ)、春に降る雪となった。
・縋(すがり) (すかり)
「国会図書館」「信州大学」「ヘルン文庫」「早稲田大学」全てにおいて、この箇所では「すがり」と濁音で表記されている。岩波文庫のみ「すかり」と清音に校訂されている。
「すがり」「すかり」はかなり揺れがあるようで、下にあるように初版の挿絵では「すがり」と表記されているが、改訂版の挿絵では「すかり」と表記されている。
左側初版「すがり」 右側改訂版「すかり」
また、次の「1.1.11.雪道」でも、初版は「すがり」、改訂版では「すかり」と表記されている。「2.1.09.雪中の用具」にも「すがり」の記述があるので、そこでもう少し見てみたい。
縋を穿て雪行図(すがりをはきてゆきにゆくづ)
上から、「すがり」「別のわらくつ」「かんじき」
カンジキとスノーシュー
トピックス:
・「すべらざるために下駄の歯にくぎをうちて用う」
これは、氷の斜面を登る時に使うアイゼンのようなものなのでしょうね。(^^)
アイゼン
釘のついている下駄は次で見ることができます。
参照リンク: 十三夜 きもの日記 雪下駄
・「初春にいたれば、雪、悉く凍りて・・・」
とありまが、これは別に春になると硬い雪が降ってくるということではないと思います。(^^) 越後の豪雪地帯でも春になれば、やはり、真冬よりもとけやすい雪が降るはずなのです。(^^)
春先に雪が硬くなるというのは、春先になると、日中は気温が高くなるので、新雪はすぐにとけたり、踏み固められたりします。しかし朝晩はとても冷え込むので、とけた雪は凍って固まります。そのため、今までに積もった何メートルもの雪は、石を布いたように硬くなるのです。しかしこの融解と凍結を繰り返して次第に雪は少なくなって行くのです。(^^)
つまりこれは、季節は関係なく、新雪は柔らかく、残った雪は硬くなるということです。
たとえば、茨城県にある筑波山は真冬でもほとんど雪は降りませんが、たまに雪が降ると、融解と凍結を繰り返し、つるつる滑る氷となり、アイゼンなしでは危険な状態になることがあります。一方雪国の山は、真冬ならばいつでも新雪があるので、強風で雪が飛ばされる急斜面などの特別な場所を除いては、アイゼンは必要ありません。その代わりカンジキが必要になります。
参照リンク:
私の北越雪譜 あわゆき
単純翻刻
○沫雪(あわゆき)
春の雪は消(きえ)やすきをもつて沫雪(あわゆき)といふ和漢(わかん)の春雪消(きえ)やすきを詩哥(しいか)の作意(さくい)とす是(これ)暖国(だんこく)の事也寒国の雪は冬(ふゆ)を沫雪(あわゆき)ともいふべしいかんとなれば冬の雪はいかほどつもりても凝凍(こほりかたまる)ことなく脆弱(やはらか)なる事淤泥(どろ)のごとし故(かるがゆゑ)に冬の雪中は「橇(かんじき)」「縋(すがり)」を穿(はき)て途(みち)を行(ゆく)里言(りげん)には雪を「漕(こぐ)」といふ水を渉(わた)る状(すがた)に似(に)たるゆゑにや又深田(ふかた)を行(ゆく)すがたあり初春(しよしゆん)にいたれば雪悉(こと/゛\)く凍(こほ)りて雪途(ゆきみち)は石を布(しき)たるごとくなれば往来(わうらい)冬よりは易(やす)し [すべらざるために下駄(げた)の歯(は)にくぎをうちて用ふ] 暖国(だんこく)の沫雪(あわゆき)とは気運(きうん)の前後(ぜんご)かくのごとし
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