熊の黒きは雪の白きがごとく
○天保三年辰の春、我が住む
白亀の
註:
・我が住む: 本文では、我が「か」濁点なし。
・大きさ狗(いぬ)のごとく: 本文では、ことく「こ」濁点なし。
・神瑞(しんずい): 本文では、(しんすい)「す」濁点なし。
・成るべし: 本文では、成るへし「へ」濁点なし。
・其の山かならず: 本文では、かならす「す」濁点なし。
参照リンク:
私の北越雪譜 白熊
単純翻刻
○白熊(しろくま)
熊の黒(くろき)は雪の白がごとく天然(てんねん)の常なれども天公機(てんこうき)を転(てん)じて白熊(はくいう)を出せり
○天保三年辰の春我(わ)か住(すむ)魚沼郡(うをぬまこほり)の内(うち)浦佐(うらさ)宿の在(ざい)大倉村の樵夫(きこり)八海山に入りし時いかにしてか白き児熊(こくま)を虜(いけど)り世に珍(めづらし)とて飼(かひ)おきしに香具師(かうぐし) [江戸にいふ見世もの師の古風なるもの] これを買もとめ市場又は祭礼すべて人の群(あつま)る所へいでゝ看物(みせもの)にせしがある所にて余(よ)もみつるに大さ狗(いぬ)のことく状(かたち)は全く熊にして白毛雪を欺(あざむ)きしかも光沢(つや)ありて天鵞織(びらうど)のごとく眼(め)と爪(つめ)は紅(くれなゐ)也よく人に馴(なれ)てはなはだ愛(あいす)べきもの也こゝかしこに持あるきしがその終(をはり)をしらず白亀の改元(かいげん)白鳥(しらとり)の神瑞(しんすゐ)八幡の鳩(はと)源家の旗(はた)すべて白きは 皇国(みくに)の祥象(しやうせう)なれば天機白熊(てんきはくいう)をいだししも 昇平万歳(しようへいばんぜい)の吉瑞(ずゐ)成へし
山家の人の話(はなし)に熊を殺(ころす)こと二三疋或(ある)ひは年歴(としへ)たる熊一疋を殺も其山かならす荒(ある)る事あり山家(さんか)の人これを熊荒(あれ)といふこのゆゑに山村(さんそん)の農夫(のうふ)は需(もとめ)て熊を捕(とる)事なしといへり熊に灵(れい)ありし事古書(こしよ)にもみえたり
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