2013年7月13日土曜日

北越雪譜 初編 巻之上 1.1.04.雪意 (ゆきもよい)

1.1.04.雪意 (ゆきもよい)

我が国の雪意 (ゆきもよい) は、暖国 (だんこく) (ひと) しからず。およそ九月の (なかば) より霜を置きて、寒気次第に烈しく、九月の末に至れば殺風肌 (さっぷうはだえ) を侵して、冬枯れの諸木 (しょぼく) 葉を落とし、天色霎 (てんしょくしょうしょう) として、日の光を () ざる事連日、是、雪の (もよおし) 也。天気朦朧 (もうろう) たる事数日 (すじつ) にして、遠近 (えんきん) 高山 (こうざん) (はく) (てん) じて雪を () せしむ。これを里言 (さとことば) に「嶽廻 (たけまわり) 」という。又海ある所は海鳴り、山ふかき処は山なる。遠雷の如し。これを里言に胴鳴 (どうな) りという。これを見、これを聞きて、雪の遠からざるをしる。年の寒暖につれて時日 (じじつ) はさだかならねど、「たけまわり」「どうなり」は秋の彼岸 (ひがん) 前後にあり、毎年 (まいねん) かくのごとし。




註:
意(もよい)は、催(もよい) に同じ。ものの兆しの見えること。

嶽廻(たけまわり) (だけまわり)
「国会図書館」「信州大学」では「たけまわり」
「ヘルン文庫」「早稲田大学」では「だけまわり」
岩波文庫によると、初版は「だけまわり」で改訂版では「たけまわり」



参照リンク:
私の北越雪譜 雪のきざし



単純翻刻

 ○雪意(ゆきもよひ)

我国の雪意(ゆきもよひ)は暖国(だんこく)に均(ひと)しからずおよそ九月の半(なかば)より霜を置(おき)て寒気次第(しだい)に烈(はげし)く九月の末に至(いたれ)ば殺風肌(さつふうはだへ)を侵(をかし)て冬枯(ふゆがれ)の諸木葉(しよぼくは)を落(おと)し天色霎(てんしよくせふ/\)として日の光(ひかり)を看(み)ざる事連日(れんじつ)是雪の意(もよほし)也天気朦朧(もうろう)たる事数日(すじつ)にして遠近(ゑんきん)の高山(かうざん)に白(はく)を点(てん)じて雪を観(み)せしむこれを里言(さとことば)に「嶽廻(たけまはり)」といふ又海(うみ)ある所は海鳴(うみな)り山ふかき処は山なる遠雷の如しこれを里言に胴鳴(どうな)りといふこれを見これを聞(きゝ)て雪の遠(とほ)からざるをしる年の寒暖(かんだん)につれて時日(じじつ)はさだかならねど「たけまはり」「どうなり」は秋の彼岸(ひがん)前後(ぜんご)にあり毎年(まいねん)かくのごとし

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